ひと言

【執行部リレーコラム】日本に1つしかない学部

         副学長 吉田宗弘
(2016年10月から副学長になってしまいました。大学執行部リレーコラムというものを担当しており、そこに掲載したものです。時間が経つと削除されてしまいますので、ここにも載せておきます。)
長野県上田市の信州大学繊維学部で開催された学会に参加してきました。上田市はNHKの大河ドラマ「真田丸」の舞台であり、駅前には真田幸村の大きな銅像もありましたが、ここでは「繊維学部」という、おそらく多くの人に馴染みのない学部について述べます。
信州大学繊維学部は1910年に開設された官立の上田蚕糸学校を前身としており、今年で創設106年を迎えています。蚕の繭から絹糸を紡ぐ製糸産業はかつて日本の主要産業であり、日本各地に蚕糸学校が設置されていました。戦後の学制改革に伴い、これらの蚕糸学校の多くは大学の繊維学部となりましたが、製糸業の衰退とともにその多くは改組・改名され、21世紀に入った時点で繊維学部を有するのは信州大学と京都工芸繊維大学の2大学のみとなっていました。その後、2006年に京都工芸繊維大学の繊維学部が工芸学部と合併して工芸科学部となったことから、繊維学部は信州大学にしか存在しない、学会の懇親会で挨拶された学部長の言葉を借りれば「絶滅危惧種」となりました。
現在の信州大学繊維学部(英語名Faculty of Textile Science and Technology)は、「ファイバー」をキーワードとした教育・研究を行なう4つの学科によって構成されており、工学士と農学士を社会に送り出しています。天然繊維や化学繊維だけでなく、光ファイバー、炭素繊維なども守備範囲であるため、機械や電気系のスタッフも充実しており、農学と工学を融合した特徴ある「絶滅危惧種」として認知されています。
研究の対象を学部名にしているという点で「繊維学部」は1980年代以降に急増した文理融合型の「人間学部」「環境学部」「情報学部」などとネーミングのコンセプトは同じといえます。一般論ですが、このような「研究対象名を冠した学部」は一体感を保つことが重要と思います。信州大学繊維学部は蚕糸学校の伝統を引き継いでいるため、構成員の「ファイバー」というキーワードへの強いこだわりが学部の一体感を高めて活気を生み出していると感じました。
大学を活性化するため、世間のニーズにあわせるため、補助金を獲得しやすくするためなど、様々な理由で、新規な名称の学部や学科が誕生し続けています。このような新学部・学科が成功するには、そこに集う教員が共通のキーワードに強いこだわりを持つことが必要です。古い看板であっても、中身を更新し続けることによって存在感を示し得ることを信州大学繊維学部は証明しています。
下の写真は構内にある資料館です。昔の貯繭(ちょけん)庫を利用しています。植えられているのは桑の木です。
 

 

 

食品安全委員会による健康食品に対するメッセージ

New Informtionにも記しましたが2015年12月8日に食品安全委員会が健康食品に対する委員会としての考えを国民へのメッセージと報告書という形式でまとめて公表しました。私(吉田)は専門委員としてこのメーッセージと報告書をとりまとめるためのワーキンググループに参画させていただきました。
このメッセージと報告書では、特定保健用食品や機能性表示食品も含めて機能性を謳う食品をすべて「健康食品」として対象にしました。そして健康食品の有効性と安全性については保証されていないものが大半であり、その利用にあたっては十分な注意が必要であることを訴えています。また、ビタミンやミネラルのサプリメントに関しても、個人が自己判断で利用することが過剰摂取のリスクにつながると警告しています。これらの内容は、私がふだんから思っていることと一致しており、参画できたことを誇りに思っております。メッセージと報告書を一読されることをお勧めします。
食品や栄養に関連する学会では食品の機能性に関する研究が圧倒的多数を占めています。このような中で食品安全委員会が公表したメッセージと報告書がどのような波紋を投げかけるか、とくに機能性食品を研究・開発している研究者やメーカーからどのような声があがるのかを注視しています。

 

フランス2015

会議や講義のない期間が約1週間あったので、資料収集を兼ねてパリおよび近郊のブルゴーニュに行ってきました。快適な気温なのですが、なぜか観光客が少なく、どこも楽に見ることができました。もっともパリ市内の交通渋滞はすさまじいものでしたが。今回は、ブルゴーニュのシャブリ村と世界遺産のサント・マドレーヌ大聖堂のあるヴェズレー村にも行ってきました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA
   シャブリ村でのワインの試飲          サント・マドレーヌ大聖堂

OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA
    シャブリ村のマーケット


祇園祭2015

今年も祇園祭です。今日は先祭の宵々山、ものすごい人です。明日の午後から台風ということで、今年の先祭の巡行は中止の可能性大です。明日の宵山も大雨かもしれません。

IMG_0798    IMG_0800

17日は台風が来ていましたが巡行は例年通り実行されました。今は後祭の山鉾が立っています。昨年からの後祭復活でお囃子を聞く期間が1週間延長になりました。

IMG_0806 IMG_0817      雨の中の前祭巡行              後祭のお囃子

伝統行事は大切です。時代がどのように変化しても守っていかねばならないと思います。関係者の皆さん本当にお疲れさまでした。

 

卒業生に贈る言葉

関西大学理工学会の会誌に卒業生に贈る言葉を執筆しました。時期的に相当な日数が経過していますが、人目に触れる機会があまりないと思いますので、HPにもUPしました。一読いただければ幸いです。

理工系学部、または理工学研究科を卒業・修了される皆さん、おめでとうございます。門出にあたり、私からのお願いを述べさせていただきます。
中世ヨーロッパはキリスト教が隅々まで浸透した社会でした。この時期のヨーロッパでは、自然現象に対する素朴な疑問、すなわち「なぜ?」という問いに、「神様の思し召し」という答えを常に用意していました。このため、中世のヨーロッパは、科学の面でも、精神の面でも東洋やアラブ社会の後塵を拝していました。古代のギリシアやローマの文化・文明は軽視され、アラブ社会の中にかろうじて保存されていたようです。
「なぜ?」には2つの意味があります。英語の「WHY」と「HOW」です。「人はなぜ生きていますか」という問いに、人体内のエネルギー産生など、生きるしくみを述べるのは、「HOW」の立場から答えたことになります。これに対して、人の存在意義について語るのは、「WHY」の立場から答えたといえるでしょう。前者が科学であり、後者は哲学といわれます。つまり、科学は世の疑問・課題に対して、「HOW」の面からしか回答を与えられないのです。
古代ヨーロッパ、すなわちギリシア・ローマ社会では、人々が哲学と科学を自由に論じました。疑問に「HOW」だけではなく「WHY」の立場からも答えようとしたのです。哲学者の群れの中からピタゴラス、アルキメデス、ヒポクラテスなど、数学、物理学、医学の祖ともいうべき人が登場していますので、哲学が先にあり、科学はその中から生まれたというべきでしょう。
キリスト教が広まった中世ヨーロッパでは、病気にかかって死ぬことも神様の思し召しでした。このため、病気の人を薬で治す試みは、神様の意思に反する行為でした。ヨーロッパの魔女が森の中で薬草を煮ているのは、魔女イコール「神様に逆らう女性」だからです。
15世紀頃になりヨーロッパでは、古代の文化・文明を見直す動きが出現しました。いわゆるルネッサンスです。その結果、「HOW」を神様から取り戻し、近代科学として再生しました。ただし、「WHY」は現在においても、まだ神様の手の中にあるようです。
翻って日本はどうでしょう。日本人は世のすべてに神様が宿ると考えました。日本の神様は一神教のような万能ではありません。失敗、失恋、嫉妬といったヘマをやらかす存在です。こんな神様にすべてを委ねていては社会が破滅します。神様に頼みごとはしますが、本気で委ねることはしなかったのです。日本人は古代から現在に至るまで、世の中の課題に対して「HOW」と「WHY」の両方を考えてきたといえます。
ずいぶんと抽象的なことを述べてしまいました。「HOW」を知識・技術、「WHY」を精神と受け取ってください。皆さんが日本の伝統に従って、知識・技術と精神の両面を育み、バランスのとれた社会人に成長されることを期待しております。

DSCF6615

ハンガリー・エゲル市のキリスト教教会です。ギリシア・ローマ風の建築になっていてキリスト教の聖人もギリシア・ローマの神々の姿になっているのに注目してください。

 

パリ・コペンハーゲンにおけるチョコレートとコーヒーのトレンド

OLYMPUS DIGITAL CAMERA IMG_0453

コ ペンハーゲンの市立図書館内のカフェで味わったコーヒーは、アメリカン式の薄いコーヒーではないのに、日本のコーヒーのように苦味がなく私にはとても飲み やすいものでした。聞いてみると、近年のトレンドは焙煎時間を短くして、コーヒー豆のもともと持っている風味を活かすことだそうです。このような浅い焙煎 のコーヒーは、紅茶やワインのような様々な香りを楽しむことができるということなのだそうです。新鮮な知識を得ることができました。このようなタイプの コーヒーは、日本で好まれる深炒りのコーヒーと異なる機能性を持つかもしれません。単純に考えれば焙煎によって生じる成分が少ないはずですから、コーヒー 豆が本来持つ成分の作用が気になります。新たな研究テーマになるかもしれません。

IMG_0452

一 方、パリの街中で見つけたチョコレートは、空港で販売されている甘味の強いものではなくカカオ 豆75%という代物で、酸味と渋みの強いものでした。カカオ豆にポリフェノールが大量に含まれていることが実感できるものでした。チョコレートの機能性を 謳う場合に、ショ糖やミルクの添加量の少ないものが対象になるといわれてますが、まさにそれを実感できるものでした。包みはパリらしいものでしたが、中身 は甘いものではなく、きわめてヘルシーといえそうなものです。様々な地域のカカオ豆を使っており、包みごとに産地が異なるという凝った商品でした。

 

健康と栄養と食品

OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA

栄養学とは、食べ物と健康との関わりを研究する学問分野です。食べ物は毎日摂取しないといけません。つまり食べ物とは日常のものであり、特殊なものではありません。栄養学とは、日常のことが研究の対象だといえます。したがって、薬の研究のように、華々しい結果は得られないかもしれません。

栄養の研究を深めると、長年継続してきた日常のふだんの食生活が健康の維持に重要であることがわかります。主食と副食、そして主菜と副菜からなる副食、これが成立している食事こそが重要だとわかります。三大栄養素をバランスよく摂取し、ビタミンとミネラルを極端に不足させないことが重要です。特定の食品、栄養素、食品成分に意味があるのではありません。食生活に含まれるすべての食品と食品成分が健康の維持には必要なのです。
私たち、関西大学栄養化学・食品化学研究室では、特定の食品や食品成分の機能を強調するのではなく、食生活はバランスと量であることを強調していきたいと考えています。